包み足・MACDゴールデンクロス・テンバガーの起点条件など、よく語られる株のアノマリーを過去10年の日本株データで検証した結果をまとめました。
「陽の包み足が出たら買い」「MACDがゴールデンクロスしたら反発」「テンバガーはこの業種から出やすい」——株の世界にはこうした経験則(アノマリー)がたくさん語られています。このアノマリーカテゴリでは、そうした経験則を鵜呑みにせず、過去10年分の日本株全銘柄の実データで実際に検証していきます。第1弾は、直近まとめて検証した5つのテーマの結果を報告します。
いずれも2016年〜現在の日本株全銘柄・日足データ(株式分割調整済み)を使い、次の共通ルールで検証しています。
| 検証した経験則 | 結果 |
|---|---|
| 陽/陰の包み足(エンガルフィング) | 支持されず |
| MACD0ライン下ゴールデンクロス→テンバガー | 「目印」にはなるが「買いシグナル」としては機能せず |
| MACDの傾き(角度)が急なほど伸びる | 支持されず(ボラティリティの罠) |
| テンバガーは業種に偏るか | 部分的に支持(緩やかな偏りあり) |
| VCPブレイク+当日上昇率+ボラ収縮 | 唯一、安定した本物のリフトを確認 |
以下、それぞれ詳しく見ていきます。
前日と当日の実体(始値・終値)を比較し、陰陽が反転して当日の実体が前日を完全に包む「包み足」。ローソク足分析の代表的な反転シグナルです。陽の包み足・陰の包み足それぞれについて、出現した翌営業日の値動きを検証しました(全銘柄・全期間、陽の包み足19,242件・陰の包み足23,480件)。
| パターン | 翌営業日に上昇継続した割合 | 平均リターン |
|---|---|---|
| 陽の包み足 | 41.3% | -0.13% |
| 陰の包み足 | 50.7% | +0.14% |
陽の包み足はランダム(50%)を下回り、むしろ陰の包み足の方が翌日上昇しやすいという逆の結果でした。事前に下降トレンドがあった場合(教科書通りの「反転文脈」)に絞っても結果は変わりません。包み足単体は、少なくとも翌営業日という短い期間では買いシグナルとして機能していません。
「テンバガー(10倍株)の多くはMACDが0ライン以下でゴールデンクロスしたところから始まる」という説を検証しました。過去10年で実際に3年以内・5年以内に10倍を達成した銘柄(192銘柄・241銘柄)について、その起点の前後にゴールデンクロスがあったかを調べています。
| 指標 | 3年以内 | 5年以内 |
|---|---|---|
| テンバガー起点の近くにGCがあった割合 | 60.4% | 59.7% |
| ランダムな1日を基準にした場合の割合 | 54.5% | 54.5% |
| GC後に実際テンバガーへ到達した割合 | 0.79% | 2.11% |
| 条件なし(流動性フィルタのみ)の到達割合 | 0.93% | 2.36% |
これは「必要条件」と「十分条件」を分けて見る必要があります。テンバガーになった銘柄を振り返ると、たしかにランダムな日より高い割合(60.4%)でGCが近くにありました。ここだけ見ると説はもっともらしく見えます。しかし、今この瞬間にGCが出た銘柄を買って将来テンバガーに届く確率で見ると0.79%〜2.11%で、条件を付けない場合(0.93%〜2.36%)とほぼ同じか、わずかに下回ります。
例えるなら「プロ選手の6割は子供の頃サッカーをしていた」は事実でも、「サッカーをしている子供の6割がプロになる」わけではないのと同じ構造です。MACDの0ライン下GCはテンバガーの通過点としてはよく見られる現象ですが、これから買う銘柄を選ぶ基準としての説得力はありません。
0ライン下GCの中でも、MACDラインの傾き(直近5営業日でどれだけ急に上向いたか、株価に対する%で正規化)が鋭いものほどその後伸びるのか。GCイベント11.6万件超を傾きで4分位に分けて検証しました(20営業日以内+8%/-8%のトリプルバリア法)。
固定バリアで見るとQ1(緩やか)23.6%→Q4(急)35.2%と、傾きが鋭いほど勝率が上がる「レバー」に見えます。ところが、傾きが鋭いバケットほどATR(値幅の大きさ)も約1.9倍高く(Q1が1.91%に対しQ4は3.66%)、値幅リスクを揃えたATR可変バリアで判定し直すとQ1(緩やか)が51.7%で最高、Q4(急)が48.7%で最低と順位が逆転します。「傾きが急」に見えていた効果の正体は、単にボラティリティが高い銘柄が目標値に早く届きやすかっただけでした。
「半導体ブームが無ければ倒産していたはずの銘柄がテンバガーになる」といった、テーマ・業種の追い風説も検証しました。過去10年でテンバガーを達成した241銘柄(5年基準)の業種構成を、日本株全体の業種構成と比較しています。
情報・通信業が実数では最大(全体の24.9%、母集団比1.31倍)ですが、比率としては保険業(2.05倍)・精密機器(1.88倍)・不動産業(1.74倍)の方が高く出ています。33業種すべてが均等ではなく、緩やかな偏りは確かにあります。ただし半導体関連が疑われる「機械」区分はむしろ過小代表(0.73〜0.82倍)で、「精密機器」がやや過大代表(1.69〜1.88倍)程度にとどまり、業種区分だけで「半導体ブーム」を裏付けるには弱い結果でした。個別には、半導体製造装置関連の助川電気工業が5年基準のテンバガーリストに実際に該当しており、テーマの追い風が個別銘柄レベルで効いたケース自体は存在します。
なお、この検証は現在上場している銘柄が対象のため、過去10年の間に上場廃止となった銘柄は含まれていません。実際の偏りや達成数はこの数字よりやや異なる可能性があります。
ここまでの4つはいずれも単体では根拠が薄いという結果でしたが、VCP(ボラティリティ収縮パターン)のブレイクアウトに、ブレイク当日の上昇率とボラティリティの収縮度という2条件を足したものだけは、ATR可変バリアでも安定したリフトが確認できました(60営業日以内+20%到達率が、条件なしの24.9%に対しholdoutで39.7%)。この条件は実際にVCP-JPスクリーナーの「高精度シグナル」バッジとして反映済みです。詳しい数字と使い方はVCP-JPスクリーナーが進化で解説しています。
5つの経験則を検証して、明確に「本物」と言えたのは1つだけでした。よく語られるアノマリーの多くは、①比較対象(ベースライン)を置かずに検証している、②値幅リスク(ボラティリティ)の違いを見せかけの効果と取り違えている、③「振り返ると多い」と「これから使えば当たる」を混同している、のどれかに当てはまることが多い、というのが今回の一番の学びです。このカテゴリでは、今後も気になるアノマリーを同じ方法で検証していきます。
本記事は情報提供であり、投資助言ではありません。投資判断は自己責任で行ってください。